硝子障子ガラスしょうじ)” の例文
やや風が吹き出して、河の天地はさらし木綿の滝津瀬のように、白瀾濁化はくらんだっかし、ときどき硝子障子ガラスしょうじの一所へ向けて吹雪の塊りを投げつける。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこは突き当りの硝子障子ガラスしょうじそとに、狭い中庭をかせていた。中庭には太い冬青もちの樹が一本、手水鉢ちょうずばちに臨んでいるだけだった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これで筆をこうと思ってふと縁先の硝子障子ガラスしょうじから外を見ると、少しもう色付きかかった紅葉の枝に雀が一羽止ってしきりに羽根を繕っている。
帝展を見ざるの記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
道子は客よりも早く着ている物をぬぎながら、枕元の窓の硝子障子ガラスしょうじをあけ、「ここの家、涼しいでしょう。」
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
右手の日本風のお庭に向って一面に硝子障子ガラスしょうじがはまった廊下へ出て、左側の取っ付きの西洋間の白いドアを開くと妻木君は先に立って這入った。私も続いて這入った。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
硝子障子ガラスしょうじを一ぱいに開け部屋じゅうへ日光を直射させながら、二階の廊下へ足を投げ出して、はじめて波の音をきく人のように珍らしそうに、この自然の音楽にきき入りながら
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そこへ客か何か来たのであろう、つるよりも年上の女中が一人、湯気ゆげの立ちこめた硝子障子ガラスしょうじをあけると、石鹸せっけんだらけになっていた父へ旦那様だんなさま何とかと声をかけた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
襖を閉め切ると、座敷を歩み過し椽側えんがわのところまで来て硝子障子ガラスしょうじを明け放した。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
長い廊下の一方は硝子障子ガラスしょうじで、庭の刀柏なぎ高野槙こうやまきにつもった雪がうす青く暮れた間から、暗い大川の流れをへだてて、対岸のともしびが黄いろく点々と数えられる。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)