研屋とぎや)” の例文
夜熊本の町を散歩して旅館研屋とぎや支店の前を通ったとき、ふと玄関をのぞき込むと、帳場の前に国見山が立っていて何かしら番頭と話をしていた。
相撲 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
貴族も大道の研屋とぎやも、華族も平民も、殿上人も町人も、皆その魔女の臣下である。人は笑い楽しみ、互いにさがし求め、賛美の光輝が空中に漂う。
「待ちなよ。差當り研屋とぎやを當つて見るのが順當だが、夏から十幾人と人間を斬つた奴が、血刀を近所の研屋に出すやうな間拔けなことはしないだらう」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
大通から、一足、横町に入ると、研屋とぎやだの、駄菓子屋だの、髷入屋だの、道具屋だの、そうでなければ、床屋だの、米屋だの、俥屋だの、西洋洗濯屋だの。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
というと研屋とぎやの五助、わめいて、むッくとね起きる。炬燵の向うにころりとせ、貧乏徳利を枕にして寝そべっていた鏡研かがみとぎの作平、もやい蒲団ぶとん弾反はねかえされて寝惚声ねぼげごえ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この村にシャレル爺さんという研屋とぎやを商売にして村中を廻って歩く爺さんがありますがね、この前の土曜日でした。村はずれでそのシャレル爺さんに逢ったんですよ。
笑い合って、蕎麦を食べ終えた頃、夕陽もかげって、研屋とぎやの屋根の上に、細い夕月が見えていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水心子天秀トイウ刀鍛冶ノ孫聟まごむこニ水心子秀世ト云ウ男ヲ呼ンデ、役所ノ跡ヘ入レテ刀ヲ打ッタ、又、研屋とぎやニ、本阿弥三郎兵衛ト云ウノノ弟子ニ仁吉ト云ウ男ガ研ガ上手ダカラ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
研屋とぎやの店先とその親爺との描写はこの作者にして初めてし得べき名文である。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「待ちなよ。差当り研屋とぎやを当ってみるのが順当だが、夏から十幾人と人間を斬った奴が、血刀を近所の研屋に出すような間抜けなことはしないだろう」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おうおうと遠近おちこち呼交よびかわす人声も早や聞えず、辻にたたずんで半身に雪をかぶりながら、揺り落すごとに上衣のひだの黒くあらわれた巡査の姿、研屋とぎやの店から八九間さきなる軒下に引込ひっこんで
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
研屋とぎやの店先とその親爺との描写は此作者にして初めて為し得べき名文である。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「平次、厄介なことが起つたな。研屋とぎや五兵衞の遺書かきおきが表沙汰になると、御腰物方が三人、腹切り道具になるが——」
何でも広徳寺前あたりに居る、名人の研屋とぎやが研ぎましたそうでございますからッてね、紫の袱紗包ふくさづつみから、にしきの袋に入った、八寸の鏡を出して、何と料理屋の玄関で渡すだろうじゃありませんか。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ところで、これはよく氣をつけて正直に返事をして貰ひ度いが、研屋とぎやの暮し向は近頃どんな具合になつてゐるんだ。昔のやうな事はないと言ふ評判も聽くが」
「あツ、ついあの」若い處女をとめらしく初めて眞つ赤になつた娘は、「あの、研屋とぎや五兵衞の娘糸と申します」
研屋とぎやへ出すだらう。外神田の研屋、下つ引を二三人使つて、片つ端から當つて見てくれ。外神田に無きや、下谷、本郷、淺草、日本橋あたりまで、手を延ばすが宜い
研屋とぎやへ出すだろう。外神田の研屋を、下っ引を二三人使って、片っ端から当ってみてくれ。外神田になきゃ、下谷、本郷、浅草、日本橋あたりまで、手を延すがいい
「理窟だな。平家がにみたいな野郎ばかり住んでゐるから、向柳原のお前の叔母さんの住んでゐるところは平家長屋さ。あの隣りの研屋とぎやの親爺と、家主のデコボコは凄い顏だぜ」
研屋とぎや、——末廣町の研屋忠兵衞が、昨夜、押込みに——」