矢柄やがら)” の例文
「さすがは重喜しげよし、油断なく自分の姿をもう見つけたか? ……」と、弦之丞も先の用意の周密なのに驚いて、矢柄やがらを見ると切銘きりめいにいわく
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「多分これは、どこかのやしろの奉納額から引き剥して持つて來たものでせう。矢柄やがらに二箇所まだらになつてゐるところがございます」
これも塚原渋柿園じゅうしえん直話じきわですが、牛込の江戸川橋のそばに矢柄やがら何某という槍の先生がありました。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
法水さん、わしならあの三叉箭ボールが、裏庭の蔬菜園から放たれたのだと云いますがな。何故なら、今は蕪菁かぶら真盛まっさかりですよ。矢筈やはずは蕪菁、矢柄やがらよし——という鄙歌ひなうたを、たぶん貴方は御存じでしょうが
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
見えるかぎりのものは、残雪の泥土と、るいるいたる死屍ししだった。破れた旗、いたずらにむなしき矢柄やがら、折れたやり、すべては泊兵の残骸ではないか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
咄嗟とつさの間に、新六郎はそれを拾つたのでせう。矢柄やがらも羽もぐつしより濡れて、もはや血の跡もありませんが、不氣味なほど鋭い矢尻をつけた、二尺にも足らぬたくましく短い矢です。
いやその紅顔は童子ともみえるが年はもう十八、九の若者で、破れた衣服、鳥の巣のようなあたま、腰には残る一本の矢柄やがらし、手には四川弓しせんきゅう(半弓)を持っている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋架はしげたの下から二筋、それから水の中から二筋見付かつた——矢柄やがらは浮くが、矢尻が重いから、矢が水の中におつ立つて羽がなくては見付からなかつたことだらう。幸ひ、水があまりにごつてゐないから——」
と書かれ、香花こうげ燈燭とうしょくのかざりはいうまでもなく、特に供えられた一すじの“誓いの矢”が人目をひいた。これなん晁蓋ちょうがいを殺した「史文恭しぶんきょう」と彫りのある毒矢の矢柄やがらなのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢柄やがらをふりかざして駈けだして来た。茶々を、打とうとするのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍女を、やじりのない矢柄やがらで打っているのだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)