にら)” の例文
「あきれてしまふ、ねえ、この人は!」女は斜めにそり返つて、男をにらむ樣に見ながら、「わたし、あなたを見そこなつてゐた。」
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「勝手が判らなくってまごまごしているのは可哀想と思うたから……。」と言いかけて氏は堅く口をじて鋭い目で前方をにらんでいた。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
欝金草賣は謹んで無言のままにくびれた。壁際高くホルバインの傑作、アルバ公爵の肖像畫が掛けてあつて、そこよりにらむ糺問法官の眼光にすくんで了つた。
欝金草売 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
喜べば則ち花開き鳥下る処、悲めば則ち木落ち風行く処、平和なれば則ち水草つぼみ黄にして佳人足をあらふ処、不平なれば則ち乞児きつじ巌頭にきょして遥に金紋先箱大鳥毛の行列をにらむ処。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
憎しみの眼をもてにらむかのくにを。
「‥‥」どう出るかと、息を殺して待ち受けてゐたらしいお鳥は、何、くそツと云つたやうにこちらをにらみ、顏が赤くなるどころではない。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
雪の屋はにやりと笑つたが、お鳥はきまり惡さを重ねた爲めだらう、恨めしさうに義雄をにらみながら、急に坐わり直し
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
かの女が義雄の枕もとに坐り、不斷通りの笑がほを見せたのを、渠は枕の上からにらみ付け、おほきな聲を——下への遠慮の爲め——押しつぶすやうにして
「‥‥」千代子は、所天をつとが突然ふり向いてにらむ鋭い眼の力を受けて、灰色じみた顏色をちよツと赤くした。
「それはさうだが——。」お鳥を見ると、もう、感づいたのかして、こちらをちよツとにらみつけた。そして胸のそとまで乳のあたりが浪打なみうつてゐるのが見える。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それが、こちらの調子を一層狂はせてしまつた。渠はぱツたり演説を中止し、一堂をにらみつけてゐたが
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「なんで泣くんぢや」と聽くと、かの女は下のお婆アさんがここへ來る度ににらみつけることを告げた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
にらむやうにして、「樺太のことと云うたら、——何でも自分のことは——火の付くやうに騷いでる癖に、あたいの事となつたら、いつでも平氣でぐづ/\させて置く!」
「ぢやア、お前はどうしてもやめると云ふのか?」川崎は氷峰をにらみつけると
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)