くらま)” の例文
翌日になると刺すやうな風が新たな、眼をくらませるやうな降雪をもたらした。暮方迄には、谷は埋り、人通りも殆んど難かしかつた。
うーむと、服部太蔵は、仰向けにひっくりかえった。然し彼の浴びたのはミネ打ちであって、単に、眼をくらましたに過ぎないらしい。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「アッハッハッ、この風で捕手いぬどもの眼をくらましとっ走るのよ! ……おかげで湯にもはいれた。……心と一緒に体も綺麗になったってものさ」
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ハンドルはもっとも危険の道具にして、一度ひとたびこれを握るときは人目をくらませしむるに足る目勇めざましき働きをなすものなり
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一年に一度の、この目覚ましい慰安的な、解放したようでその実解放しない、人目をくらます華々しいやり方と、終りの方に書いてある、窓々の金網のことを見すごすことは出来ない。
雛店というと、目の前に描き出されるのは直ちに店一杯真赤な色をしている、その赤い中に、金色もあれば、青色もあり、紫色もあり、白色もあり、紅紫こうし燦爛さんらん、人目をくらまするような感じである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ひろき窓の下鋪板しもゆかに達するまでに切り開かれたる、丹青たんせい目をくらましたりけん壁畫の今猶微かにのこれるなど、昔の豪華の跡は思はるれど、壁の下には石灰の桶いくつともなく並べ据ゑられ、鋪板ゆかには芻秣まぐさ