白虹はっこう)” の例文
雨後の夕空には白虹はっこうがかかっていた。虎口の門をのがれ出た玄徳の車は、ふたりの義弟に護られながら、虹の下を、無事、わだちをめぐらしつつ戻って行く——。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晴れあがった暖かい日差の中で、白虹はっこうのようにやいばひらめいた。人影がさっと入乱れ、鋭い叫声がきこえたと思うと、追手の一人が道の上に倒れ、若い武士は断崖のほうへ身をしりぞいた。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
閃めく白虹はっこう。間一髪に才蔵は飛んで、姿は宙に消えてしまった。と、その瞬間に白狼うなりして飛びかかる。それをかわして颯と切る。——ウオと一声吠えながら、まりのように地に転がる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白虹はっこう日を貫くのは不祥である、月光くれないに変ずるのも只事ではない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なんでたまろう、二じょう白虹はっこう、パッと火花をちらしたかと思うと、燕作の鈍刀なまくらがパキンと折れて、こおりのごとき鋩子きっさき破片はへん、クルッ——と虚空こくうへまいあがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閃々、たがいに白虹はっこうを描き、鏘々しょうしょう、共につばおののき鳴らす。——そして魏延の足が劉璋へ近づこうとすれば張任の眼と剣は、きっと、玄徳へ向って、殺気をはしらせた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空を仰いで、白虹はっこうのような星雲をかけた宇宙と見くらべると、この世の山岳の大も、黄河の長さも、支那大陸のなる広さも、むしろあわれむべき小さい存在でしかない。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一条の白虹はっこうは、途中から颯々さっさつの霧となって飛んだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)