由利ゆり)” の例文
「父上。由利ゆりどのは、質子構ちしがまえにおる柳生新介の所へ、時々、行っておりますよ。いいんですか、あんな所へ女が行って」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともに谷中の瑞輪寺に葬られた。鶴林の女ひさが父の没した翌月二月十九日に秋田県由利ゆり郡松ヶ崎の人楠荘三郎に嫁し現在麹町こうじまち下六番町しもろくばんちょうに住している。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
本人と代人との差はどうすることも出来ないものであります。これよりもむしろ郷土風なものとしては由利ゆり郡亀田町の薇織ぜんまいおりを挙げるべきではないでしょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それが必ずしも特殊の伝播でんぱでないことは、羽後うご由利ゆり郡の海岸でもサシボコ、それからなお東北一帯のサシドリがあって、むしろ分布は他のいずれよりも弘いのである。
春徳寺の檀家だんか、本銀町の阿波屋あはや三郎兵衞、獨り娘お由利ゆりが長の患ひで、一度は醫者にも見放されたのが不思議なきつかけで本服し、今では以前の美しさも健やかさも恢復した喜びに
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
梅窓院の近くにある薬種問屋やくしゅどんや伊吹屋源兵衛の家では、大奥に奉公に上がっている娘の由利ゆりが、今夜は特に宿退やどさがりを頂けるとあって、半年振りに見る顔が待ち遠しく、先ほど妹娘のお春に
仄暗ほのぐらい杉戸の縁から、彼は眼をみはると、部屋の中にいた人影も、ぎょっとしたように振向いた。——白い顔、すずやかで大きなひとみ由利ゆりなのである。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのかわりに木綿布の古切ふるぎれを何枚も合わせて、それを雑巾ぞうきんよりも細かく堅く刺して、麻布のかわりに上覆うわおおいに着ていると見えて、私も羽後うご由利ゆり郡の山村をあるいた時に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お前がお比奈ひなに言ふと、我慢が出來なくなつて、日暮れを待ちかねて樣子を見に來たらう、——阿波屋の娘のお由利ゆりは、それをふすまの隙間から見て、お小姓に違ひない——と飛び出さうとするんだ。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
もう観念したものか、いつぞやの夜とちがって、十兵衛のいろいろな詰問きつもんに、お由利ゆりは、悪びれずに答えた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊勢の一志いちし郡などでいう島の女、信州川中島附近の越後えちごの田植女、秋田県由利ゆり郡などの荘内しょうないの早乙女などは、今では年々の檀家だんかのごときものができて、いつもまった家の田に来て植えているが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
由利ゆりといふのは十八の娘盛り、これは哀れ深く優しい娘でした。
妻の由利ゆりとのあいだには、長男厳勝としかつ、次男厳久としひさのふたりの子もあった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと同じように水の動揺によって平らげた岸の平地を由良ゆらとか由利ゆりとかいっている。すなわちユラグ、ユルなどという言葉が転じたのである。それから山中で少しく平らな所をナル・ナロと呼ぶ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
荘内しょうない以北由利ゆりの海岸も一様である。