瑣々ささ)” の例文
余コレヲ留メテ曰クメヨ止メヨト。毅堂大声ニ曰ク朋友ほうゆうノ誼ハ重シ。瑣々ささタルノ禁何ゾ意トスルニ足ラン。春濤ラ要シテ遂ニ止ム。ともづなたつノ口ニ解ク。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日常瑣々ささの事、猶且なほかつ味はひ来れば無限の趣味あり、無限の秘密あり、無限の教訓ありて、我等をして思はず忸怩ぢくぢとして無謀の行動を敢てせざらしむる者也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
国のために、道のために、主義のために、真理の探究のために心を潜めるものは、今日でも「諸縁を放下ほうげすべき」であり、瑣々ささたる義理や人情は問題にしないのである。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そもそも宗教の思想は、これを覚了したる教祖の心中にありては、実に大海の水のごとく深くしてかつ大なるも、言語、文字の上に現れたる宗教の形象は瑣々ささたる一杯の水なり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
瑣々ささたるものは分離し、広きものは結びつく。私等は相互に博大な心を持つ様にならなければいけない。我々の周囲に群がる有象無象のために、ものの根本を見逃してはならない。
婦人解放の悲劇 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
学者は区々たる政府のまつりごとを度外に置き、政府は瑣々ささたる学者の議論を度外に置き、たがいに余地を許してそのはたらきをたくましゅうせしめ、遠く喜憂の目的をともにして間接に相助くることあらば
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今までは瑣々ささたる問題にも、きわめて丁寧ていねいにいらえしつる余が、このころより官長に寄するふみにはしきりに法制の細目にかかずろうべきにあらぬを論じて、ひとたび法の精神をだに得たらんには
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そんなわけで、集まった醵金きょきんは実に瑣々ささたるものにすぎなかった。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
「あんな瑣々ささたることを我輩が意に介しているものか?」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、けだしこれ也。問題と秘密とは、微々たる一茎の草花にも宿り、瑣々ささたる一小事にも籠る。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)