物詣ものもう)” の例文
昨年の秋鳥部寺とりべでら賓頭盧びんずるうしろの山に、物詣ものもうでに来たらしい女房が一人、わらわと一しょに殺されていたのは、こいつの仕業しわざだとか申して居りました。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
物詣ものもうでに行く前夜であるらしい、親の家というものもあるらしい、今ここでこの人を得ないでまた逢いうる機会は望めない、実行はもう今夜に限られている
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ある時信康は物詣ものもうでに往った帰りに、城下のはずれを通った。ちょうど春の初めで、水のぬるみめたころである。とある広いぬまのはるか向うに、さぎが一羽おりていた。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
恋しい女と連れ立ってゆく物詣ものもうでには、かえって供のない方が打ちくつろいでよいとも思ったので、きょうはわざと徒歩かちで来たのであるが、この俄雨に逢って彼はすこし当惑した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一寸法師いっすんぼうしの話に出てくる鬼も一身の危険を顧みず、物詣ものもうでの姫君に見とれていたらしい。なるほど大江山おおえやま酒顛童子しゅてんどうじ羅生門らしょうもん茨木童子いばらぎどうじ稀代きだいの悪人のように思われている。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)