片々かた/\)” の例文
そして背中に負つた袋を、まづ片々かた/\の肩からはづして、それから又外の肩からはづした。もう此袋のはづし方には馴れてゐるのである。
そして真面目な顔をして、少くも片々かた/\の目で虚空の或る一点を睨んでゐる。その一点は議事堂の塔の上である。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
「あの矢張休んでゐます。先程お茶とパンを一つ戴きました。右の手はまだちつとも動きません。足の方も動きませんの。それに目も片々かた/\は好く見えないと申しますが。」
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
もう片々かた/\の靴を顏の高さ迄持上げて、出來上りに滿足してゐるやうな目つきをして見てゐる。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
縁台も内へ入れて一方かた/\へ腰障子が建って居ります、なれども暑い時分でございますから、表は片々かた/\を明け放し、此処に竹すだれを掛け、お瀧が一人留守をして居りますと、門口から
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、ほつと胸先を撫でおろすさうだ。だから間違つて電車にき殺される場合には、成るべく履物を後先あとさきへ、片々かた/\は天国へ、片々かた/\は地獄へ届く程跳ね飛ばす事だけは忘れてはならない。
つかうへ趺坐ふざして打傾うちかたむいて頬杖ほゝづゑをした、如意輪によいりん石像せきざうがあつた。とのたよりのない土器色かはらけいろつきは、ぶらりとさがつて、ほとけほゝ片々かた/\らして、木蓮もくれんはな手向たむけたやうなかげした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)