熱苦あつくる)” の例文
折れ曲り折れ曲りして草深い中を行く、風は涼しいが藪が繁っているので熱苦あつくるしい。少し登ると昨日越して来た平湯峠が目にはいる。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
赤ん坊が時々熱苦あつくるしくもぎゃあぎゃあ泣くほかは、お互いに口をくこともなく、夏の真昼はひッそりして、なまぬるい葉のにおいと陰欝な空気とのうちに
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
いやに熱苦あつくるしい、南風がなお天候の不穏を示し、生赤なまあかい夕焼け雲の色もなんとなく物すごい。予は多くの郵便物を手にしながらしばらくこの気味わるい景色けしきに心を奪われた。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なつかしき女史は、幾日の間をか着のみ着のままに過しけん、秋の初めの熱苦あつくるしき空を、汗臭あせくさ無下むげよごれたる浴衣ゆかたを着して、妙齢の処女のさすがに人目はずかしげなる風情ふぜいにて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三平などはあれを飲んでから、真赤まっかになって、熱苦あつくるしい息遣いきづかいをした。猫だって飲めば陽気にならん事もあるまい。どうせいつ死ぬか知れぬ命だ。何でも命のあるうちにしておく事だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪江は怖さに熱苦あつくるしいことなどを考えている余裕はなかったのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)