いぶ)” の例文
しばらくすると、枯れ杉とかやの枝をつかんで戻ってきた。そして、所を見計らって、そのかやの木をプスプスといぶしはじめる。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞けば二日前の夜に敵が焼き払ったとのことであるが、以後、雨もないせいか、なおいぶり煙っている土もある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには、真っ黒にいぶった三つの炭焼竈が、毛をむしられた巨獣のようなあらはだをして、火口ひぐちを並べていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして理性の帰った心の谷に、罪の意識めいた悔いだけが、硫黄の煙るみたいにもうもうといぶッてくる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庫裡くりの外だった。真っ裸な男が、井戸のほうから歩いてくる、まるでいぶしにかけた羅漢らかんである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いぶりかけている七輪へ顔を寄せて、眼を紅くただらせながらともほうからいう。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙の蔭にみないぶったい顔をして沈黙した。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)