火宅かたく)” の例文
今宵こよいだけでも大みそかの火宅かたくからのがれる事が出来ると地獄で仏の思い、紙衣かみこしわをのばして、かさは無いか、足袋は無いか、押入れに首をつっ込んで、がらくたを引出し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ここへ来て、真実ほっといたしました。内裏という火宅かたくをのがれ出てきたような思いがして」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
踏むは地と思えばこそ、裂けはせぬかとの気遣きづかいおこる。いただくは天と知る故に、稲妻いなずま米噛こめかみふるおそれも出来る。人とあらそわねば一分いちぶんが立たぬと浮世が催促するから、火宅かたくは免かれぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ドッカとして飛散りし花をひねりつ微笑びしょうせるを、寸善尺魔すんぜんしゃくま三界さんがい猶如ゆうにょ火宅かたくや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
火宅かたく エミイル・ヴェルハアレン
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そうして晏如あんじょとしている。電車に取り巻かれながら、太平の空気を、通天に呼吸してはばからない。このなかに入る者は、現世を知らないから不幸で、火宅かたくをのがれるから幸いである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わするなり 人みな人の世の火宅かたく
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏語ぶつごで形容すれば絶えず火宅かたくを受けて、夢の中でさえいらいらしている。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)