澪標みおつくし)” の例文
いや、磯でもなし、岩はなし、それの留まりそうな澪標みおつくしもない。あったにしても、こうひと近く、羽を驚かさぬ理由わけはない。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空を往来する精霊しょうりょうのためには、まことに便利なる澪標みおつくしであるが、生きた旅人にとってはこれほどもの寂しいものはない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「うむ、いいな……」思わずひとみ四方よもせた。紺青こんじょうの海遠く、淡路の島影は夢のよう。すぐ近くには川口の澪標みおつくし青嵐あおあらしの吹く住吉道すみよしみちを日傘の色も動いて行く。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東は三枚洲さんまいず澪標みおつくし遥に霞むかたより、満潮の潮に乗りてさし上る月の、西は芝高輪白金の森影淡きあたりに落つるを見ては、誰かは大なるかな水の東京やと叫び呼ばざらん。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
連句の進行の途上ところどころに月や花のいわゆる定座じょうざが設定されていて、これらが一里塚いちりづかのごとく、あるいは澪標みおつくしのごとく、あるいは関所のごとく、また緑門のごとく樹立している。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
思うに㟽は地形に基いて山にしたがったが元の字は標で澪標みおつくしのツクシすなわち榜示ぼうじの義であろう。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と図に乗って饒舌しゃべるのを、おかしそうに聞惚ききとれて、夜のしおの、充ち満ちた構内に澪標みおつくしのごとく千鳥脚を押据えてはばからぬ高話、人もなげな振舞い、小面憎かったものであろう
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明治の初めに用掛のことをヨウケイなどといった類である。話が多岐にわたって相済まぬが上総かずさ下総しもうさで峠と書いてヒョウというのは標の音である。標はシメである。また澪標みおつくしのツクシである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ツクシは自分の推定では、澪標みおつくしのツクシであって、突立った柱を意味する。こんな微物に向って、通例は重々しく考えられる標木ひょうぼくの名を転用したところに、もう最初からの軽い戯れがあると思う。