やつと)” の例文
かれやつとのことで戸口とぐちつた。勘次かんじばうとしてたらうちはひつそりとくらい。戸口とぐちてゝたらかぎかけてあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
斯の骨の折れる山道を越して、やつとのことで峠の下まで歩いて行きますと、澤深い温泉宿のやうな家々の灯が私の眼に嬉しく映りました。そこが中仙道の沓掛くつかけであつたかと覺えて居ます。
丁度通りかかる音作を呼留めて、一緒に助け起して、やつとのことで家まで連帰つて見ると、今すこし遅からうものなら既に生命をられるところ。それぎり敬之進は床の上に横に成つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其時、私は先住の匹偶つれあひにも心配させないやうに、檀家だんかの人達の耳へも入れないやうにツて、奈何どんなに独りで気をみましたか知れません。やつとのこと、お金を遣つて、女の方の手を切らせました。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やつとの思で、敬之進を家まで連れて行つた時は、まだ細君も音作夫婦も働いて居た。人々は夜露を浴び乍ら、屋外そとで仕事を為て居るのであつた。丑松がちかづくと、それと見た細君は直に斯う声を掛けた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)