渓流たにがわ)” の例文
旧字:溪流
うの字峠の坂道を来ると、判事さんが、ちょっと立ち止まって、渓流たにがわの岩の上に止まっていた小さな真っ黒な鳥を打った。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
不図ふとがついてると、下方したながるる渓流たにがわ上手かみては十けんあまりの懸崕けんがいになってり、そこにはばさが二三けんぐらいのおおきな瀑布たきが、ゴーッとばかりすさまじいおとてて
赫々かくかくとした夏の真昼に、樹々は濃い緑から汗を流し、草花は芳香を強く立て、渓流たにがわは軽快な笑声を上げ、兎や鹿は木の間に刎ね、一切万象は自由に大胆に、その生命を営んでいた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜の更くるを恐れて二人は後へ返し、渓流たにがわに渡せる小橋の袂まで帰って来ると、橋の向うから男女なんにょの連れが来る。そして橋の中程ですれちがった。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
渓流たにがわの音が遠く聞ゆるけれど、二人の耳には入らない。ひとりの心は書中しょちゅうに奪われ、ひとりは何事か深く思考おもいに沈んでいる。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まだ炎熱あついので甲乙ふたりは閉口しながら渓流たにがわに沿うた道を上流うえの方へのぼると、右側の箱根細工を売る店先に一人の男が往来を背にして腰をかけ、品物を手にして店の女主人の談話はなしているのを見た。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)