淫祠いんし)” の例文
私が花田君子を家畜のように愛撫した時世から、いまでは私は淫祠いんし的な日本人の肉感と、彼女が私になす虐待をあまんじて受けなくてはならぬ。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
かくの如く私が好んで日和下駄ひよりげたをカラカラならして行く裏通うらどおりにはきまって淫祠いんしがある。淫祠は昔から今に至るまで政府の庇護を受けたことはない。
社会の風教を乱すような邪教淫祠いんし、いかがわしい医療方法や薬剤、科学の仮面をかぶった非科学的無価値の発明や発見
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あきれるばかりに図々ずうずうしいつらの皮千枚張りの詭弁きべん、または、淫祠いんし邪教のお筆先、または、ほら吹き山師の救国政治談にさえ堕する危険無しとしない。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
「傾城塚には驚きました。まさか邪教の淫祠いんしとは、夢にも想像しませんでしたので、どうぞして今度の旅行には、ああいうものにぶつからないように」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つとに聖賢の道に志ざし、常に文武の教に励み、熊沢蕃山くまざわばんざんその他を顧問にして、藩政の改革に努め、淫祠いんしこぼち、学黌がくこうを設け、領内にて遊女稼業まかりならぬ。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
しかし、その布教の本体はと云えば、いつもながら、淫祠いんし邪教にはつきものの催眠宗教であって、わけても、当局の指弾をうけた点というのが、一つあった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼は淫祠いんしにも等しいような古いカソリックの寺院を多く見た眼でリモオジュのサン・テチエンヌ寺を見、あのサン・テチエンヌ寺を見た眼を移して巴里のフランソア・ザビエー寺などを見
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いずこの寺の門内にもよく在る地蔵尊じぞうそんを始め、迷信の可笑味おかしみを思い出させる淫祠いんしも、また文人風の禅味を覚えさせる風致も、共に神社の境内には見られない故でもあろう。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここは淫祠いんしの祭壇なのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
淫祠いんしの興隆は時勢の力もこれを阻止することが出来ないと見える。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)