浦人うらびと)” の例文
「ただの山家女や浦人うらびとのむすめとは思えぬ。何かいわくのある者だろう……」と、そのまま縁を下りて、あり合う草履ぞうりに足をつッかけながら。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浦人うらびと可哀あわれがりました。ですが私は——約束に応じて宝を与え、その約束を責めて女を取る、——それが夢なれば、船に乗っても沈みはしまい。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが悠々ゆうゆうとして浦賀海峡の真中、江戸の湾口に横たわっているのですから、船を見るに慣れた浦人うらびとの眼をも、驚かさないわけにはゆきません。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかあれどもかの遊女の中に多く往生おうじょう浦人うらびとの物の命を断つものゝ中にあってついにいみじき侍りし
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
本来はすべて浦人うらびとの所得だったのが、のちに少しずつ法令をもってこれを制限したのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
浦人うらびと島人しまびと乗せて城下に往来ゆききすること、前に変わらず、港開けて車道でき人通りしげくなりて昔に比ぶればここも浮世の仲間入りせしを彼はうれしともはた悲しとも思わぬ様なりし。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
せまくても石碣村せっかそん浦人うらびと仲間では、男名おとこなを売っている兄弟三人が、「——なんでそんな運命に負けて指をくわえているのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何も知らぬ浦人うらびとは、幕府から役人が来て、天下様の御用で、この引揚工事が始まるのだとばかり思うていました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本州の北端では津軽領つがるりょう某浦ぼううらに、延宝えんぽう七年(一六七九)の四月、浦人うらびと磯山のいただきに登って海上を見渡し、おびただしくいわしの寄るように見えたので、漁船を催して網を下げ、引揚げて見たところが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この辺の浦人うらびとなんぞは、そんな惨酷なことをする人間ではなく、最初から、我々には好意を持っていてくれたものが、急にこんなになったのは、お嬢さんの言う通り
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浦人うらびとをおどろかすな。ここに合戦はないとすぐ布令ふれておけ。赤松、案内をたのむ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)