洋筆ペン)” の例文
彼の父は洋筆ペンや万年筆でだらしなくつづられた言文一致の手紙などを、自分のせがれから受け取る事は平生ひごろからあまり喜こんでいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三田は止むを得ず洋筆ペンを置いて、成る可く淡紅色の腰卷より上に視線を保ちながら、相手に對した。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
何故なぜそんな小さな文字を書かなければならないのかとさえ考えて見なかった彼は、ほとんど無意味に洋筆ペンを走らせてやまなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三田は洋筆ペンを置いて、手のつけられない相手をたしなめてみた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
書斎にいる健三は時々手に洋筆ペンを持ったまま、彼らの声に耳を傾けた。自分にもああいう時代があったのかしらなどと考えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三田は洋筆ペンを置いて立つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
号鐘ベルつて、講師は教室からて行つた。三四郎は印気いんきの着いた洋筆ペンつて、帳面ノートせ様とした。すると隣りにゐた与次郎が声を掛けた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎は真逆まさかうかとも云へなかつた。うす笑ひをした丈で、又洋筆ペンはしらし始めた。与次郎もそれからは落付おちついて、時間の終る迄くちかなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼はまた洋筆ペンを放り出した。赤い印気インキが血のように半紙の上ににじんだ。彼は帽子をかぶって寒い往来へ飛び出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細い青貝の軸を着けた洋筆ペンがころころと机をすべってゆかに落ちた。ぽたりと黒いものが足の下に出来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ついこの間まで郊外に等しかったその高台のここかしこに年々ねんねん建て増される大小の家が、年々彼の眼からあおい色を奪って行くように感ぜられる時、彼は洋筆ペンを走らす手をめて
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)