泥足どろあし)” の例文
泥足どろあしのままおくするところもなく自ら先に立って室内へ通った泰軒居士こじ、いきなり腰をおろしながらひょいと忠相の書見台をのぞいて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
返辞がないので、自分で流し元へ足を入れて、ざぶざぶと泥足どろあしを洗い、裏口をきょろきょろしながら、暑いのに、戸を閉めて、心張棒しんばりぼうをかってしまう。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人に懺悔ざんげい、告白を聞いて裁断し、触るべからざる悲しみに触れて、一層人の心を傷つけるような信仰者がある。たとえば中宮寺の庭を泥足どろあしで歩むようなものだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「こらこら、そんな所為まねをする」と二葉亭はやさしく制しながらも平気で舐めさしていた。時に由ると、嬉しくて堪らぬようにあとから泥足どろあしのまま座敷まで追掛けて来てジャレ付いた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかし最後に感じたものはそれらの感情よりも遥かに大きい、何とも云われぬ気の毒さである。たっとい人間の心の奥へ知らずらず泥足どろあしを踏み入れた、あやまるにもあやまれない気の毒さである。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)