河風かわかぜ)” の例文
主人のない家は河風かわかぜがいっそう吹き荒らして、すごい騒がしい水音ばかりが留守居をし、人影も目につくかつかぬほどにしか徘徊はいかいしていない。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もうしばら炬燵こたつにあたっていたいと思うのを、むやみと時計ばかり気にする母にせきたてられて不平だらだら、河風かわかぜの寒い往来おうらいへ出るのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土手へあがった時には葉桜のかげは小暗おぐらく水を隔てた人家にはが見えた。吹きはらう河風かわかぜに桜の病葉わくらばがはらはら散る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長い年月れた河風かわかぜの音も、今年の秋は耳騒がしく、悲しみを加重するものとばかり宇治の姫君たちは聞きながら、父宮の御一周忌の仏事の用意をしていた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これが美しい貴女きじょらしい手跡で書かれてあった。河風かわかぜも当代の親王、古親王の隔てを見せず吹き通うのであったから、南の岸の楽音は古宮家の人の耳を喜ばせた。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
月の出がごとおそくなるにつれてその光は段々えて来た。河風かわかぜ湿しめッぽさが次第に強く感じられて来て浴衣ゆかたの肌がいやに薄寒くなった。月はやがて人の起きているころにはもう昇らなくなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
主客ともにねむることなしに夜通し宗教を談じているのであるが、荒く吹く河風かわかぜ、木の葉の散る音、水の響きなどは、身にしむという程度にはとどまらずに恐怖をさえも与える心細い山荘であった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)