沈黙だま)” の例文
旧字:沈默
沈黙だまった女は花のようにやさしい匂いを遠くまで運んで来るものだ、なみだのにじんだ目をとじて、まぶしい燈火に私は顔をそむけた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
(何故沈黙だまっているのだろう? 何が行われているのだろう? ……栞はどうしているのだ? ……いや栞は何をされているのだろう?)
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう云ってしまうと、青年はさも最後の努力で使命を果した、と云った様子で、疲れて沈黙だまってしまった。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
どこまでも自分の人生を語りつづけて行く貴方の声がききたいのです。沈黙だまってしまうようではいけません。いつでも自分の心を語れるようでなくては。生活に臆病にならないで。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
梶棒とつては、気が利ねど、てうと半との、賽の目の、運が向いたら、一夜の隙に、お絹布かいこ着せて、奥様に、劣らぬ生活くらしさせてみる。えお園さん、どうしたもの。沈黙だまつてゐるは死にたいか。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
沈黙だまつて居る間にも亦た言ふに言はれぬ愉快を感ずるのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
親父は沈黙だまり込み
母へ (新字新仮名) / 長沢佑(著)
沈黙だまって本を読んでいる私へ、光ちゃんが小さい声でこんな事を云った。誰もいないサロンの壁に、薔薇ばらの黄いろい花がよくにおっていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
微塵覚えのない事に、あんなお詞戴いても、奥様なりやこそ沈黙だまつてをれ。よしんば古参の、お前でも、朋輩衆に嬲られて、泣く程までの涙はない。退屈ざましの慰みなら、外を尋ねて下さんせ
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私は二枚ばかりの単衣ひとえを風呂敷に包むと、それを帯の上に背負って、それこそ飄然ひょうぜんと、誰にも沈黙だまって下宿を出てしまった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それも紳商の娘とか、申すならば格別と、人も沈黙だまつておりますれど。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
蒲団ふとんは一組で三枚、私はいつものように、読本を持ったまま、沈黙だまって裾へはいって横になった。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
沈黙だまって故郷へは送金しよう、——私はそう思って毎日与一の額の繃帯を巻いてやった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私達は一緒いっしょになって間もなかったし、多少の遠慮えんりょが私をたしなみ深くさせたのであろうか、その男の白々しらじらとした物云いを、私はいつも沈黙だまって、わざわざ報いるような事もしなかった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
沈黙だまっとりゃ、六年生でも入れようたい、よう読めるとじゃもの……」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
僕は沈黙だまっていた。彼女がその着物をちぬ子の家から持って来てもはや十日あまりにもなるのだが、一心になって毎日こつこつ縫っている彼女に向って、何を僕がとがめだてする事が出来るだろう。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「これへ乗って行きゃア、東京まで、沈黙だまっちょっても行けるんぞ」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
与一は沈黙だまって、一生懸命いっしょうけんめい赤い鼻の先をこすっていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)