永久とわ)” の例文
おりきの家の格子戸が勢よく開いて、何も知らずに、永久とわに来ぬ可愛い男を待ち侘びている娘お糸、通りの上下かみしもの闇黒を透かして
戸村家の墓地は冬青もちのき四五本を中心として六坪許りを区別けしてある。そのほどよい所の新墓にいはかが民子が永久とわ住家すみかであった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
永久とわの棲家と定めて、ふたたび下界へはくだるまいと誓うていましたが、使いの戻りが余りに遅いので、自分にここへ尋ねて来ました。使いの口上、お聴きなされたか。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その音は、今井と僕との永久とわの別れを告げる悲しい響きであった。年上の娘は、顔を両手で隠して慟哭どうこくした。人々は愁然しゅうぜんとして、墓場の黄昏たそがれ背後あとにしながら、桜堂の山を下った——。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
五月一日 加賀松任まつとう在、北安田、明達寺に非無を訪ひ、永久とわ女を見舞ふ。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
心は永久とわに むるなし
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……永久とわなる昨日
「ここはお身が永久とわ棲家すみかじゃ。」と、彼はおごそかに言った。「身も魂もここに封じられた以上は、ふたたび人間のに帰ろうとて帰られぬ。また帰るべき家もない。 ...
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨の翌日、子供達と共に、今井の死骸を火葬場に送って、永久とわの別れを告げた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
三本を口尻へ含んで遺恨うらみと共に永久とわに噛み締めた糸切歯——どちらかといえば小股の切れ上ったまんざらずぶの堅気でもなさそうなこの女の死顔、はだけた胸に三カ所、右の手に二つの大小の金瘡きんそう
九月十一日 野本永久とわより新米の初物といふを送り来りしに。小諸。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)