正金しょうきん)” の例文
まぎれもない正金しょうきんである。五十両の金は、妻の血の結晶のように彼には見えた。熱いものがとめなくその眼からあふれた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は正金しょうきん銀行支店長の松倉吉士まつくらきちじという方の宅へ招かれて、在留日本人の紳士紳商の方々のために一夕いっせきチベット談を致し
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
使いをやって正金しょうきん銀行で換えた金貨は今鋳出いだされたような光を放って懐中の底にころがっていたが、それをどうする事もできなかった。葉子の心は急に暗くなった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これより先わが身なほ里昂リオン正金しょうきん銀行に勤務中一日公用にてソオン河上かじょう客桟きゃくさん嘲風姉崎ちょうふうあねざき博士を訪ひし事ありしがその折上田先生の伊太利亜イタリアより巴里にきたられしことを聞知りぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私はフォン・プスタン夫人の家に泊っている日本人を知っていますが、彼は横浜正金しょうきん銀行の人です。彼の奥さんと三人の子供も今此方こちらへ来ています。彼等の名前は今井と云うのです。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
れでも大抵たいてい四十年前の事情が分りましょう。今ならば一向いっこうけはない。為替で一寸ちょいおくっれば、何も正金しょうきんを船につんで行く必要はないが、商売思想のない昔の武家は大抵こんなものである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「それで、どうして払って下さるだね? 正金しょうきんでかな?」
正金しょうきんのAさん・住友のB氏・三井のCさん・郵船のD君・文部省留学生E教授・大使館のFさん——夫妻・子供・それに日本かられてきている女中——新聞社特派員のG君・「商業視察」のHさん・海外研究員のI君・寄港中の機関長J氏——これらは
その頃には日本の租界そかいはなかったので、領事館を始め、日本の会社や商店は大抵美租界の一隅にあった。唯横浜正金しょうきん銀行と三井物産会社とが英租界の最も繁華な河岸通にあったのだという。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)