機勢はずみ)” の例文
ほんの機勢はずみといいたいほどの力が加わったために、彼女が今日こうやっていられるのだと思うと、何だか恐ろしかった。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
僕は毎日怒つたやうな、妙に切迫した怖い顔を結んで、極く稀に、ふとした機勢はずみでしか笑ひ出すことが出来なかつた。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
これを懐へ入れて置いたのが、立上る機勢はずみにドサリと落ちたから番頭はこゝぞと思って右の巾着を主婦あるじの前へ突付けたり、鳶頭かしらにも見せたりして居丈高いたけだかになり
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのうちどうした機勢はずみか、Iさんの強打した直球が、あなたのスカアトから股の間に飛びこんだら、皆もドッと笑ったけれど、あなただけいつまでも体をつぼめて
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
黙つて兄から顔を視守られてゐると、どう反抗しようもなくなつて来て、丁度先の電車が動き出さうとした機勢はずみに、くびすをめぐらして、それに飛び乗つて了つたのである。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
時の機勢はずみとはいえ、先方から仕掛けた刃傷沙汰とはいえ、その恩人の乾児を四人殺したとは……。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうちにどうした機勢はずみかそのポケット猿がヒラリと下に飛び下りて逃げだしたんです。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その佐藤は成立学舎の寄宿へ這入った。そこでまかない征伐をやった時、どうした機勢はずみか額にきずをして、しばらくの間白布しろぬので頭を巻いていたが、それが、後鉢巻うしろはちまきのようにいかにも勇ましく見えた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうして人間性が無限無数にその中心を新しく変えて行けばこそ人間の生活が活気を帯び、機勢はずみを生じ、昨日に異った意義と価値を創造して進むことが出来る。これが人間生活の堅実な状態である。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「時の機勢はずみという奴さ」伊右衛門はひどく冷淡に「お梅の顔がお岩に見え、喜兵衛の顔が小仏小平こぼとけこへい其奴そいつの顔に見えたのでな、ヒョイと刀を引っこ抜くと、コロコロと首が落ちたってものさ」
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)