梅雨時つゆどき)” の例文
毎日毎日、気がくさくさするような霖雨ながあめが、灰色の空からまるで小糠こぬかのように降りめている梅雨時つゆどきの夜明けでした。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
御実験あれ。なかなかうまいものです。——梅雨時つゆどきの朝飯は、何と云っても、口の切れるような熱いコオフィと、トオストが美味のような気がします。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やがて十月になったが、からりとした秋晴れの空にはならず、梅雨時つゆどきのような、じめじめして蒸し暑い日が続いた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は、梅雨時つゆどきの夕方みたいな気持ちでいる、ボースンの室へはいった。そして、何かと手伝ったのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
梅雨時つゆどきの暗い天気と、畳の上にカビが生えるような、じめじめした湿気と、そうした季節に、そうした薄暗い家の中で、陰影深く生活している人間の心境とが
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
高崎あたりでは日光のみえていた梅雨時つゆどきの空が、山へ入るにつれて陰鬱に曇っているのに気がついた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
梅雨時つゆどきを繁りはびこる雑草は今のうちにむしって置く方が好い。それがまた適当な仕事のように思われたからである。挘るといっても大半は鎌を使わねばならない。庭はそれほど荒れているのだ。
こいすずきだろう。きのうも大きな魚が捕れた。梅雨時つゆどきだからなあ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
谷地やちの水かみしもとに瀬鳴りてごもり重しここの梅雨時つゆどき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
梅雨時つゆどきの箒を遁れて咲いていたっけ
檻の中 (新字新仮名) / 波立一(著)
その翌日、雨はあがつてゐたが、梅雨時つゆどきのやうな薄昏うすぐらい朝であつた。富岡は営林署へ行き、赴任ふにんの挨拶をした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
靄ごめや三階松さんがいまつの塗笠の笠揺り畳ね今は梅雨時つゆどき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)