杜切とぎ)” の例文
少女のような声はただそれきりで杜切とぎれた。それから昏睡こんすい状態とうめき声がつづいた。もう何を云いかけても妻は応えないのであった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
手紙は書き終らずにめたものらしく、引きいた巻紙まきがみと共に文句は杜切とぎれていたけれど、読み得るだけの文字で十分に全体の意味を解する事ができる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人の会話は、そこでまたもや杜切とぎれてしまった。帆村は次第につのり来る寒さに、外套の襟を深々とたて、あとは黙々として更けてゆく夜の音に、ただジッと耳を澄ましたのだった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……と杜切とぎれ杜切れに呼ぶ皺枯れた臆病想な声が私の耳の後で聞えました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
あなたの言葉の杜切とぎれ間を。
家並が杜切とぎれたところから、海岸へ降りる路が白く茫と浮んでいる。伸びきった空地のくさむらと白っぽい埃の路は星明りにもだうなされているようだった。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
手紙は書きをはらずにめたものらしく、引きいた巻紙まきがみと共に文句もんく杜切とぎれてゐたけれど、読みるだけの文字で十分に全体の意味を解する事ができる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
真昼の電車の窓から海岸のくさむらに白く光るすすきの穂が見えた。砂丘が杜切とぎれて、窪地くぼちになっているところに投げ出されている叢だったが、春さきにはうらうらと陽炎かげろうが燃え、雲雀ひばりの声がきこえた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)