朝寒あさざむ)” の例文
土手八丁どてはっちょうをぶらりぶらりと行尽ゆきつくして、山谷堀さんやぼり彼方かなたから吹いて来る朝寒あさざむの川風に懐手ふところでしたわが肌の移香うつりがいながらやま宿しゅくの方へと曲ったが
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて、つまみ、ちがへ、そろへ、たばねと、大根だいこのうろきのつゆ次第しだいしげきにつけて、朝寒あさざむ夕寒ゆふざむ、やゝさむ肌寒はだざむ夜寒よさむとなる。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
朝寒あさざむのころに、K—がよく糸織りの褞袍どてらなどを着込んで、火鉢の傍へ来て飯を食っていると、お銀が台所の方で甲斐甲斐かいがいしく弁当を詰めている、それが
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伊助は朝寒あさざむとは別に身を顫はせました。狐憑きつねつきから落ちた狐のやうな顏が、妙に惡賢こさを思はせます。
朝寒あさざむはまだやわらいでいなかった。彼女は例の貧しげな古い外套ブルヌースを着て、緑色のきれを頭からかぶっていた。その顔はまだ病気の名残りをとどめて、やせて青白く、頬がげっそりこけていた。
かつての上方女形おやま雀右衛門じゃくえもんの住居であったと聞くこの宿。お勝手や細廊下に働く人影も、小庭にりた竹のすがたも、みな道頓堀の名女形といわれた主のかたみかと、なんとなく朝寒あさざむのいじらしい。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)