旅店やどや)” の例文
定め其處よ彼處かしこと思へ共つひに其日は捨兼て同じ宿なる棒端ぼうばな境屋さかひやと云旅籠屋はたごやに一宿なして明の朝此所の旅店やどやを立出て人の往來ゆきゝの無中にすてなんとおいつ其場所がらを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
十字に交叉かうさしたみちを右に折れると、やがてわたしの選んだ旅店やどやの前に車夫は梶棒かぢぼうおろした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
旅店やどやへ泊って酒を飲んで、中には芸者までげる人もありますが帰って来て御計算なすったら雉一羽が何円に当ります。少くとも一羽の雉を撃つのに五円や十円はかかりましょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
旅店やどやで廊下を穿かせる赤い端緒はなおの立ったやつで——しっとりとちと沈んだくらい落着いたおんななんだが、実際その、心も空になるほど気のめるわけがあって——思い掛けず降出した雪に、足駄でなし
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アハハ、それも銃猟じゅうりょうに行って兎一羽を撃つ費用から比べたら何でもありますまい。随分今の銃猟紳士は兎猟に行って旅店やどやへ泊って晩酌ばんしゃくにビールや葡萄酒ぶどうしゅの一本位傾ける事も毎度ありましょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
... 旅店やどやへおいでになりましたか」大原「ハイ、僕が今送って参りました」お登和嬢はしきりに尋ねたき事あり「失礼ですが今夜は御両親もお帰りで貴郎はお忙しくっていらっしゃるでしょうに今頃御散歩とはどうも変ですね。何か御心配な事でもおありなさいますか」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)