方嚮ほうこう)” の例文
いつか小川町おがわまちの広い電車通りへ出て来て、そこから神保町の方嚮ほうこうへと歩くのだったが、その辺は不断通っていると、別に何の感じもないのだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「田居に」の「に」は方嚮ほうこうをも含んでいる用例で、「小野をぬゆ秋津に立ちわたる雲」(巻七・一三六八)、「京方みやこべに立つ日近づく」(巻十七・三九九九)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この思想の方嚮ほうこうを一口に言えば、懐疑が修行で、虚無が成道じょうどうである。この方嚮から見ると、少しでも積極的な事を言うものは、時代後れの馬鹿ものか、そうでなければ嘘衝うそつきでなくてはならない。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
右に方嚮ほうこうを転ずるや否や
後にしばしば彼の気持を支配して来た職業心理というものも混ざりこんではいなかった。ただ方嚮ほうこうのない生活意慾の、根柢こんていからの動揺でしかなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
考の別記に、「御歌を奉らせ給ふも老は御乳母の子などにて御むつまじき故としらる」とあるのは、事実は問わずとも、その思考の方嚮ほうこうには間違は無かろうとおもう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこには蝋燭ろうそくの炎のなび方嚮ほうこうによって人の運命を占うという老婆が、じめじめした薄暗い部屋に坐りこんでいて、さっそく葉子の身の上を占いにかかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
併し、「に」に方嚮ほうこう(到着地)を示す用例は無いかというに、やはり用例はあるので、「粟島あはしまに漕ぎ渡らむと思へども明石あかし門浪となみいまだ騒げり」(巻七・一二〇七)。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
反対の方嚮ほうこうへと雪崩なだれがちで、逆に歓楽を追求する傾向にあり、避難民で行っていた田舎いなかから足を洗って来たばかりの銀子たちも、出先で猛烈な掠奪戦りゃくだつせんが始まり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
瑞西スイスの首都 Zürichチュリヒ をば午後二時十分発の急行列車で立った。そして、方嚮ほうこうを東南に取り、いわば四方から湖に囲まれたという姿の、Rigiリギ の山上に一夜泊ろうとしたのであった。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし自分の取るべき方嚮ほうこうについて、親たちに相談しようというはっきりした考えもなかったし、話してみてもお前の好いようにと言うに決まっているのだったが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
松島の商売も赤字つづきで、仕送りも途絶えがちになったので、今度は方嚮ほうこうをかえ公園へ出た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)