放蕩者ほうとうもの)” の例文
それは若い時は仕様しようのない放蕩者ほうとうものでもあったであろうが、それは時代と環境の罪もあって、彼ばかりがわるいとは言えない。
大まじめで自分を放蕩者ほうとうものと思いんで、「ああ、もし無駄むだに時を浪費ろうひさえしなかったら、えらいことができたのになあ!」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私は女のはだにしがみついて、私の苦しみをやる道を覚えました。人は私を放蕩者ほうとうものと呼びます。私はその名に甘んじます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「何でもお父さんが佐倉の御典医だったというから、家柄はいいらしいんだけれど、あの父さんは確かに才子ではあるけれど、ひどい放蕩者ほうとうものらしいのよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
放蕩者ほうとうものでも金ばなれがいいとはきまらないだろうが、彼は徹底した自己中心で、自分の快楽に対してしか決して金は使わないし、使いぶりも吝嗇りんしょくに近いほどしみったれていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手の付けようのない放蕩者ほうとうもので一時勘当までされた、弟の滝三郎父子が乗込み、兄の鉄馬殿を、土蔵の中に押し込めて、犬猫のようなひどい目に逢わせ、自分が兄の家を乗っ取って
バオレルはいつも上きげんで、悪友で、勇者で、金使いが荒く、太っ腹なるまでに放蕩者ほうとうもので、雄弁なるまでに饒舌じょうぜつで、暴慢なるまでに大胆であった。最も善良なる魔性の者であった。
放蕩者ほうとうものに似合わない、敵に後ろを見せるは名折れだとひやかしたが、本心はやっぱり、おれが吉原を断わって、待たせてある人のために帰って来てくれた、それがこんなに嬉しいのだ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女がル・ブラン氏の香水店にいなかった一週間、ある有名な放蕩者ほうとうものの若い海軍士官と一緒にいたのは、周知のことである。そこへ喧嘩けんかが起って、彼女が家へ帰ったものと想像されている。
なんとかかとか必ず苦情の持ち上がるべき英国風の小やかましい検疫もあっさり済んで放蕩者ほうとうものらしい血気盛りな検疫官は、船に来てから二時間そこそこできげんよく帰って行く事になった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私のうわさは聞いていただろう、嘘だとは云わない、噂は誇張されるものだが、私はすなおに、自分が放蕩者ほうとうものだったことを承認する、一と言、ただ一と言だけ云うが、私がなぜ放蕩者になったか
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)