放肆ほしいまま)” の例文
どうかすると自分ながら驚くばかり放肆ほしいままな想像——そういうものが抑えに抑えようとしている精神こころの力を破って紙の上にほとばしって出て来ていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
東京で思いがけなく男に逢えたお島は、二三日の放肆ほしいままな遊びに疲れた頭脳あたまに、浜屋のことと、若い裁縫師のこととを、一緒に考えながら、ぼんやり停車場を出て来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とにかくしんみりと身も心をも打ち込んで、靜かな感興を放肆ほしいままにしてゐたに相違ない。所が不圖ふと何ごころなく眼を書物から外すと、すぐ自分の居る對岸に一個の男が佇んで釣竿を動かして居る。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
彼は性来の臆病から、仮令たとえ自分で自分に知れる程度にとどめて置いたとは言え、自然を蔑視さげす軽侮あなどらずにはいられないような放肆ほしいままな想像に一時身を任せた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
知らない顔の客のことで、口を掛ければ直ぐに飛んで来るような、中年増ちゅうどしまおんなが傍へ来て、先ず酒の興を助けた。庭を隔てて明るく映る障子の方では、放肆ほしいままな笑声が起る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これはそう細いという方でもないが、何処どこ成島柳北なるしまりゅうほくの感化を思わせる心の持方で、放肆ほしいまま男女おとこおんな臭気においぐような気のすることまで、包まずおおわずに記しつけてある。思いあたる事実こともある。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)