うた)” の例文
空想勝なる自分の胸は今しもこの山中にも猶絶えない人生の巴渦うづまきの烈しきを想像してうたた一種の感にうたれたのであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのあした横雲白よこぐもしろ明方あけがたの空に半輪の残月を懸けたり。一番列車を取らんと上野に向ふくるまの上なる貫一は、この暁の眺矚ながめうたれて、覚えず悚然しようぜんたる者ありき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分は後の低い山に登つて、種々いろ/\なる思想にうたれながら一人その悲惨なる光景をながめて居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼のふところを出でたるは蝋塗ろぬりきらめ一口いつこうの短刀なり。貫一はその殺気にうたれて一指をも得動かさず、むなしまなこかがやかして満枝のおもてにらみたり。宮ははや気死せるか、推伏おしふせられたるままに声も無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)