揮発油きはつゆ)” の例文
ねえさん、玉虫たまむしつかまえてきたよ。ぼく揮発油きはつゆをつけて、ころしてやろうか?」と、まことさんは、いいました。これをきくと、春子はるこさんは
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
山の手の賤妓は揮発油きはつゆの匂をみなぎらしてお座敷に来り、カッフェーの女給仕は競馬石鹸の匂芬々ふんふんとして新粧を凝し千束町の白首しろくびは更にアルボース石鹸の臭気をいとわず。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二十面相は、じょうだんのようにつぶやきながら、懐中から銀色のケースをとりだし、その中の揮発油きはつゆをしみこませた綿をちぎって頭と顔をていねいにふきとるのです。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たしかに、今まで見えていたものが、揮発油きはつゆのシミのように蒸発してしまったのだ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
己の精神は、アルコオルや揮発油きはつゆよりももっと蒸発力じょうはつりょくの強い気体きたいのようなもので、いくら壜詰びんづめにされても、キルクや封蝋ふうろうで密閉されても、わずかな隙間からどんどん上昇して行くのだった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まあ、かわいそうに、なんてまことさんは、乱暴らんぼうなことをするのでしょう。いまわたしがもちをってあげてよ。」と、いって、おくから揮発油きはつゆ綿わたにしませてきて、丁寧ていねいはねをふいてやりました。
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)