掻取かきと)” の例文
村人ら、かつためらい、かつ、そそり立ち、あるいは捜し、手近きを掻取かきとって、くわすきたぐい、熊手、古箒など思い思いに得ものを携う。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は腰に差した鎌を取出して、時々鍬に附着する土を掻取かきとって、それから復た腰をこごめて錯々せっせとやった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はそう叫ぶようにして云いながら、腐敗部分をがりがりと、手早くメスで掻取かきとった。
其の鳥打帽とりうちぼう掻取かきとると、しずくするほど額髪ひたいがみの黒くやわらかにれたのを、幾度いくたびも払ひつゝ、いた野路のじの雨に悩んだ風情ふぜい
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二度ばかり掻取かきとった路も、また薄白くなって、夜に入れば、時々家の外で下駄の雪の落す音が、ハタハタと聞える。自分の家へ客でも訪れるのかと思うと、それが往来の人々であるには驚かされる。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)