抱懐ほうかい)” の例文
成政は、その精力的な体を、両肱りょうひじに誇張して、頭の粗雑を舌でおぎなってゆくような雄弁で、日頃の抱懐ほうかいを、呶々どどと、云いまくした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「詩人の恋」はハイネの詩のよさと共に、シューマンのリードに対する抱懐ほうかいと天分を傾け、一面クララへの愛情の氾濫はんらんを描いたものと言ってよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
従って私の現在の見解を、それを抱懐ほうかいする私の理由と共に、検討に委ねるのが、私の義務となっているのである。
同一の志趣を抱懐ほうかいしながら、人さまざま、日陰の道ばかり歩いて一生涯を費消する宿命もある。全く同じ方向を意図し、甲乙の無い努力をもって進みながらも或る者は成功し、或る者は失敗する。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
べつに自己のはかりとする抱懐ほうかいもつぶさに述べて、やがて笠置を退がったにちがいない。——とにかく正成は、また即刻、河内の水分みくまりへ帰って行ったのだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清教徒とルーテル派との信仰の争闘が、バッハに安住を許さない情勢になったばかりでなく、彼の抱懐ほうかいする教会音楽改良意見が、物議の的とならずにはいなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
いかにも昨夜また今朝、一度ならず抱懐ほうかいの一端は申しのべたが、それがしの申すたびに、あなた方が反対召さる。座中ごうごう、紛論ふんろんをかもすのみで、何らの効もない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、あくまでも私の生活を通して見た大作曲家で、私の抱懐ほうかいする尊崇と、愛着と、驚嘆きょうたんと、そして時には少しばかりの批判とを、なんのおおうところもなく、思うがままに書き連ねたものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その折、玄徳とも知って、お互いに世事を談じ、抱懐ほうかいを話し合ったりしたこともある間なので
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の門人として信頼のおける点からも、又四郎はその抱懐ほうかいをこの老僧には打明けていたらしい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、秀吉が、かくも沁々しみじみ、真面目に心事を語るのは、めずらしいことだった。それは彼が、いまや天下にさん抱懐ほうかいしょぶるに当って、この年の初めを、まさに重大な岐機ききと見
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)