扇形おうぎなり)” の例文
露地が、遠目鏡とおめがねのぞさま扇形おうぎなりひらけてながめられる。湖と、船大工と、幻の天女と、描ける玉章を掻乱かきみだすようで、近くあゆみを入るるにはおしいほどだったから……
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中匙で今の原料をすくって四つの扇形おうぎなりの仕切りへ一つずつ落して上からピタリと蓋をして強い火で二、三分間焼くとソラ中でジュウっとふくらむ様子が分るだろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ひよの声がする、百舌鳥もずが高く啼いている。ハラハラハラハラ扇形おうぎなりの葉が降りしきっている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見ると、その朝にかぎって、扇形おうぎなり貯水池ちょすいちには小さなハヤや大きな山女やまめが、白いはらかせて死んでいるのだ。あの強そうな赤い山蟹やまがにまで、へろへろして水ぎわに弱っていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漆間うるしま八郎右衛門の両人も、左右から力をあわせ、追いつめ追いつめ、扇形おうぎなり空濠からぼりくぼへ、敵が足ふみ外してころげ落ちたので——討つなと、野添の槍を止めて、引っからげて参ったのでござります。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)