懸合かけあい)” の例文
健三の父と島田との懸合かけあいについて必要な下書したがきらしいものが細君の手に渡された。細君は女だけあって、綿密にそれを読みくだした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卑怯ひきょうなことをしっこなしさ。おら、ただ懸合かけあいに来ただけなんだよ、何も、人殺しに来たんじゃないよ」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて『ふらんす物語』損害賠償の談判は八年に渡りて落着せず大正五年籾山もみやま書店『荷風傑作鈔』なるものを出版し該書がいしょの一部を採録するに至り重ねて懸合かけあい面倒とはなりけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
愚図ぐず々々ぬかすと、処々に伏勢ふせぜいは配ったり、朝鮮伝来の地雷火が仕懸けてあるから、合図の煙管きせるはたくが最後、芳原はくうへ飛ぶぜ、と威勢の懸合かけあいだから、一番景気だと帳場でも買ったのさね。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時候の挨拶あいさつ、用談、それからもっとった懸合かけあい——これらから脱却する事は、いかに枯淡な生活を送っている私にもむずかしいのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それじゃ一人で朗読するのですか、または役割をめてやるんですか」「役を極めて懸合かけあいでやって見ました。 ...
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病人はただううんと挨拶あいさつ——挨拶にもならない声をかすかに出すばかりであった。そこで大勢は懸合かけあいにならない慰藉いしゃをやめて、囲炉裏の周囲まわりだけでしたの用を弁じていた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始めからこっちの気を引くためにわざとそんな突飛とっぴな要求を持ち出したものか、または真面目まじめ懸合かけあいとして、それを比田ひだへ持ち込んだあと、比田からきっぱり断られたので
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)