思起おもいおこ)” の例文
そういう話を聞いた時、わたくしはすぐにモーパサンの「還る人」Le Retour と題せられた短篇小説を思起おもいおこした。
噂ばなし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
上野駅での出来事を思起おもいおこした刹那せつな猿轡さるぐつわと手足の繩目なわめを幻想したが、どうして、繩目どころか、全く自由な身体で、彼はその長椅子のクッションに深々と横わっていたのである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それのみならず去年の夏の末、お糸を葭町よしちょうへ送るため、待合まちあわした今戸いまどの橋から眺めたの大きなまるい円い月を思起おもいおこすと、もう舞台は舞台でなくなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は何のいわれもなく山の手のこのあたりを中心にして江戸の狂歌が勃興した天明てんめい時代の風流を思起おもいおこすのである。
それらの光景は私の眼にはただち北斎ほくさいの画題を思起おもいおこさせる。いつぞや芝白金しばしろかね瑞聖寺ずいしょうじという名高い黄檗宗おうばくしゅうの禅寺を見に行った時その門前の閑地に一人の男がしきりと元結の車を繰っていた。
鉄橋と渡船わたしぶねとの比較からここに思起おもいおこされるのは立派な表通おもてどおりの街路に対してその間々に隠れている路地ろじの興味である。擬造西洋館の商店並び立つ表通は丁度電車の往来する鉄橋の趣に等しい。
何人なんぴとか、何事か。忘れしものを思起おもいおこすに