思惟しゆい)” の例文
その頃夢殿は修理中であり、折あしく救世くせ観音は拝することが出来なかったが、中宮寺の思惟しゆい像も、薬師寺の聖観音も、三月堂も、高畑の道も、香薬師もみた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
正道正業しょうどうしょうごう思惟しゆいさるる事には恭敬心くぎょうしんを以て如何にも素直にこれを学び之をぎょうじたのであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こうした疑念が起ッたので、文三がまた叔母の言草、悔しそうな言様、ジレッタそうな顔色を一々漏らさず憶起おもいおこして、さらに出直おして思惟しゆいして見て、文三はつい昨日きのうの非をさとッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わたくしはこう思惟しゆいして、抽斎の勤王を説くに当って、遂にこの事に言い及んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
道元は答えていう——それは難事である。他人のはからうべき事でない。自らよくよく思惟しゆいして、まことに仏道の志があるならば、どんな方法でもめぐらして母儀ぼぎ安堵あんどさせ、仏道に入るがよい。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
持久する思惟しゆいで繋ぎ止めて行くが好い。
大夏木打ち立てりけり我れ思惟しゆい
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
同じ飛鳥仏でも百済くだら観音や中宮寺の思惟しゆい像のごとく、人体に近づいてくる仏像ほど心をひかれた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
保はかくの如くに思惟しゆいして、校長、教師に敬意を表せず、校則、課業を遵奉じゅんぽうすることをも怠り、早晩退学処分の我頭上とうじょうに落ちきたらんことを期していた。校長諸葛信澄もろくずのぶずみの家にを通ぜない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
寒灯下明暗もなき思惟しゆいかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いま中宮寺思惟しゆい像の傍に断片のまま残っている天寿国曼荼羅は、太子の御冥福めいふくを祈って、妃のひとりである多至波奈大郎女たちばなのおおいらつめが侍臣や采女うねめとともに刺繍ししゅうされた繍帳銘である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)