いと)” の例文
いや、かれの心の奥を割ってみれば、かれの心も、決してお綱をいとってはいないのだ。むしろ、弦之丞もいつかお綱を好もしくさえ思っている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウム。……だが伊織。それならお前はなぜ、白骨を持ったその手を、さも汚いように、先刻からいとっているのか」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の将士も、譜代ふだい足軽のべつを問わず、死ぬことはもういとわなかったにちがいない。けれど、大きな死にがいを持ちたかったことは疑いもないことであろう。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこの幕中に、幹の太さ三抱えもあるくすの大木があった。義元は、雨をもいとって、こずえの下へ寄った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地獄にも堕ちろ、師の破門もいとわぬ。このために数珠ずずって、外道げどうへ落ちるともやむを得ん。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その急激な忠勤ぶりは、やがて同列の者からいとわれだした。たださえ、べつな眼でみられやすい新参であるのに、光秀にへつらえない自負心があるし、知識人らしい持前のにおいがある。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どんな苦しみをしてもいといませぬ。ただ、末かけて、お忘れくださいますな」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんとか、和解のみちはないものだろうか」禅閤は、自分の力で、この大きな対立の調停ができるものなら、どんな骨を折ってもよい、老い先のない身を終ってもいとわないと考えていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「思い違いをしてはならぬ。この弦之丞は、決してそちをいとうてはいない」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いといませぬ)新婚の夜の誓いであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)