心安立こころやすだて)” の例文
大蔵大臣であった山本達雄氏などは大阪にゆくときっと呂昇をよんで、寵妓ちょうぎの見張りを申附けられるまでに心安立こころやすだてのなかであった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いよう、黒外套くろがいとうの哲学者先生。お久しぶりですな。」剽軽者ひょうきんものの一羽の雀は心安立こころやすだてと御機嫌とりとからこんな風に呼びかけました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
千代子は何のかんがえもなく心安立こころやすだてに呼びかけようとするのを、蝶子が心づいて、そっと千代子に注意をした。山室と歌唱いとは何も知らずそのまま横町を六区の方へ曲る。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一つはお浪の心安立こころやすだてからでもあろうが、やはりまだ大人おとなびぬ田舎娘の素樸きじなところからであろう。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
爺いさんがどんなに心安立こころやすだてをせずにいても、無理にも厭なうわさを聞せられるのだが、為合せな事には一方の隣が博物館の属官で、法帖ほうじょうなんぞをいじって手習ばかりしている男
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
冷かしや調戯からかいずらに俺あいうのじゃねえ。心安立こころやすだてにペラつく口なんだ。何をおめえ、女房にもう直きなる女が、亭主ときまった男に首ったけなのは、この上なしいことなんだ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
心安立こころやすだて、馴染振、余り早いと遣り込める。
心安立こころやすだての友達が、鉛筆もまんざら悪くはないが、いつもあれでは余り無定見ぢやないかといふと、支配人は砂糖臭い大きな欠伸あくびを一つした。
芥川氏は何心なにごころなく封を切つて読み下したが、暫くすると可笑をかしさうににや/\笑ひ出した。するとちやう其処そこかね心安立こころやすだて滝田樗陰たきたちよいん氏が女中に導かれて、ぬつと入つて来た。