彼処此処あちこち)” の例文
旧字:彼處此處
万一ひょっとしたらいから左様な処へでも行きはしまいかと、是から吉原へ這入って彼処此処あちこちを探して歩行あるいたが分りません。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、鏡の前へ立って、それを身体の彼処此処あちこちへつけて眺めまわした。これかそれかと定めかねてしばし躊躇した。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
かすかに聞える伝通院でんずういん暮鐘ぼしょうに誘われて、ねぐらへ急ぐ夕鴉ゆうがらすの声が、彼処此処あちこちに聞えてやかましい。既にして日はパッタリ暮れる、四辺あたりはほの暗くなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「オヤ、どうした⁈」と、思っていると彼処此処あちこちの雪のなかから黒い鼻先がひょくりひょくりと現われてくる。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今までその上についてあたたかだった膝頭ひざがしら冷々ひやひやとする、身体からだれはせぬかと疑って、彼処此処あちこちそでえりを手ではたいて見た。仕事最中、こんな心持こころもちのしたことは始めてである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)