山菅やますげ)” の例文
かたわらの方に山菅やますげで作った腰簑こしみのに、谷地草やちぐさで編んだ山岡頭巾やまおかずきんほうり出してあって、くすぶった薬鑵と茶碗が二つと弁当が投げ出してあるを見て
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ黒髪山の山菅やますげに小雨の降るありさまと相通ずる、そういううら悲しいようなせつなおもいを以て序詞としたものであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぬば玉の黒髪山の山菅やますげに小雨降り敷く、しくしくおもへば。——旅人の真菅ますげの笠や朽ちぬらん、くろ髪山のさみだれの頃。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(本を取り上げて開ける)……えゝと、(朗読)人麻呂ひとまろ。ぬばたまの黒髪山の山菅やますげに、小雨降りしき、しくしく思ほゆ。……ぬばたまのは枕言葉。
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
という歌があるが、この中にある山草やますげはすなわち山菅やますげであろうといわれているが、このヤマスゲも万葉学者は麦門冬のヤマスゲと思っているでしょう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
国方くにがたで、菜萸ぐみといっているものの一尺ほどの細木、草はといえば、かやよし山菅やますげが少々、渚に近いところに鋸芝のこぎりしばがひとつまみほど生えているだけであった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぬばたまの黒髪山くろかみやま山菅やますげ小雨こさめりしきしくしくおもほゆ 〔巻十一・二四五六〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
山菅やますげならぬことをれによせいはれしきみはたれとかぬらむ
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
然るに、巻十四、東歌あずまうたの挽歌の個処に、「かなし妹を何処いづち行かめと山菅やますげ背向そがひ宿しく今し悔しも」(三五七七)というのがあり、二つ共似ているが、巻七の方が優っている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)