山沢さんたく)” の例文
彼等はことごとく家族をあとに、あるいは道塗どうと行吟こうぎんし、あるいは山沢さんたく逍遥しょうようし、あるいはまた精神病院飽食暖衣ほうしょくだんいするの幸福を得べし。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あれから伊賀へ出、近江路へ下り、美濃、尾州と歩いてここへ来たのであるが、行く先々の城下や山沢さんたくに彼は剣の真理を血まなこで捜した。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっしぐらに武蔵は山沢さんたくへ入りこむ。彼が山の中にこもってどういう生活をやっているか、それは彼が山から里へ出て来るすがたを見るとほぼ察しがつく。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとしく人の心の中に生きていると云う事から云えば、湖上の聖母は、山沢さんたくの貉と何の異る所もない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土倉どさう弓箭きゆうせんは満ち、山沢さんたくに健児は待つ。然れども、その日を見ず、いま、事あらはれて、鎌倉沙汰の軍士、検非違けびゐのため、この地に殺到さつたうあるべし、と聞ゆ。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついに彼は杯をうけて、ここに山沢さんたくの同じ悲命児らと、生涯の義を結ぶこととなってしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
純で情熱的で、ただ国のなんくとしている、いわゆる山沢さんたくの健児の風がまだあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤壁せきへきの江上戦に、精猛せいもうひきいる曹操そうそうが、完敗を喫したのも、当初、彼の軍隊の兵は多く北国産の山沢さんたくに飛躍したものであり、それに反して、江南の国の兵士は、大江の水に馴れ
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山沢さんたくの賊となって生きてゆくのも、大所からてやれば、流々転相るるてんそうの世の中の泡つぶ、こうしてまで、生きてゆかねばならぬほどに落ちたのかと思えば、あわれともいえる、不愍ふびんともいえる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はははは。同情はかたじけないが、さまで正成の身に立入ってくれるにはおよばん。山沢さんたくの子には、また山沢の子ならでは分らぬ本懐ほんかい一楽いちらくがある。むしろ尊氏どのの道こそ終生如何あろうかと惜しまれる。……おう」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)