寝刃ねたば)” の例文
こぞって寝刃ねたばを合わせているから、この男一人が出動したからとて、城下の人心の警戒と恐慌は、あえて増しもしないし、減じもしない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大塔ノ宮は吉野の孤塁こるいに、千早は敵の重囲のなかで、明日の望みはおろか、一命すらも、いつ北条の寝刃ねたばに会うやらと、日々が露の身のおここちだった。
「この上に妨げが入ってはいけない。浪蔵と信三郎と品吉は縛ってあるが、この上どこに寝刃ねたばを合せている者がないとは限らない。善は急げだ、手当が済んだら行こうか」
といって寝刃ねたばを合わせるじゃあない、恋に失望したもののその苦痛くるしみというものは、およそ、どのくらいであるということを、思い知らせたいばっかりに、らざる生命いのちをながらえたが
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陰謀の寝刃ねたばを向けられている当の老婆が、全く一人ぼっちでいるという事を、すぐその前日この上なく確実に、いっさい危険な質問や探索なしに突き止めるのは、およそ困難なことに相違ない。
お十夜が恋の仇と寝刃ねたばをとぐ彼、そして、お綱の思いあくがれている彼の姿が、江戸の地へ立ったのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刃を上にして膝へ載せてから研石みがきいしを取って竜之助は、静かにその刃の上を斜めにこすりはじめました。竜之助は、いまこの刀の寝刃ねたばを合せはじめたものであります。
「すべりを防ぐために、寝刃ねたばを合せるということもあるが——」
お前さんも薄々は感づいていましょうけれど、笊組ざるぐみの久八だの、大月玄蕃や投槍の小六などは、いまだに絶えず寝刃ねたばいで、新九郎さんの隙をうかがっているのですよ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寝刃ねたばを合せていることも、巻藁を切るためであったかと思えば、別段に凄いことではありません。
今、ようやく寝刃ねたばを合せ終ったのは二尺三寸、手柄山正繁の一刀でありました。
せつな我れを失う寝刃ねたばの闇のこと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)