容貌おもばせ)” の例文
『はあ。』と答へた時は若々しい血潮がにはかにお志保の頬に上つた。そのすこし羞恥はぢを含んだ色は一層ひとしほ容貌おもばせを娘らしくして見せた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
小泉の家に伝って、遠い祖先の慾望を見せるような、特色のある大きな鼻の形は、彼の容貌おもばせにもよく表れていた。顔の色なぞはまだ艶々つやつやとしていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
男らしい威厳を帯びた其容貌おもばせのうちには、何処となく暗い苦痛の影もあつて、壮烈な最後の光景ありさま可傷いたましく想像させる。見る人は皆な心を動された。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
自然おのづ外部そとに表れる苦悶の情は、頬の色の若々しさに交つて、一層その男らしい容貌おもばせ沈欝ちんうつにして見せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お種の写真顔は、沈鬱ちんうつな、厳粛な忠寛の容貌おもばせをそのまま見るようにれた。三吉の眼にも、木曾で毎日一緒に居た姉の笑顔を見るような気がしなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十年も前に見た鈴木の兄に比べると、旅で年とったその容貌おもばせで。この人が亡くなったおいの太一の父親であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お房は、耳のあたりへ垂下たれさがる厚い髪の毛をうるさそうにして、うっとりとした眼付で二人の方を見た。何処どこか気分のすぐれないこの子供の様子は、余計にその容貌おもばせを娘らしく見せた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは男に活写いきうつし、はん手札てふだ形とやらの光沢消つやけしで、生地から思うと少許すこしもっともらしくれてはいましたが、根が愛嬌あいきょうのある容貌おもばせの人で、写真顔が又た引立って美しく見えるのですから
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)