ひと)” の例文
と呼ぶおんなの声に、浪子はぱっちり目を開きつ。入り来るひとを見るより喜色はたちまち眉間びかんに上りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ええ、古市一番の旧家で、第一等の宿屋でござります。それでも、今夜あたりは大層なおひとでござりましょ。あれこれとおっしゃっても、まず古市では三由屋で、その上に講元こうもとのことでござりまするから、お客は上中下とも一杯でござります。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日は網曳あびきする者もなく、運動するひとの影も見えず。を負える十歳とおあまりの女の子の歌いながら貝拾えるが、浪子を見てほほえみつつかしらを下げぬ。浪子は惨としてみつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
秋風吹きめて、避暑の客は都に去り、病を養うひとならではとどまる者なき九月初旬はじめより、今ここ十一月初旬はじめまで、日のあたたかに風なき時をえらみて、五十あまりのおんなに伴なわれつつ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)