婉麗えんれい)” の例文
スパセニアの肢体が眼の前で跳躍して、ドブンと水煙立てて……ジーナが婉麗えんれいな身体をくねらせ、手を上げて眼の前を過ぎてゆく!
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
とりわけ「京友禅きょうゆうぜん」の評判を知らぬものはありません。友禅染はその優雅な婉麗えんれいな紋様と色調とにおいて、日本味の豊な染物であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
例へば雅樸なる句をものするには甚だ句調の和合わごうに長じながら、婉麗えんれいなる句をものするには句調全く和合せざる事あり。く能く注意研究を要す。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
父は能筆で、お家流をよく書き、字体も婉麗えんれいなものであったが、病後は小さな字を書くこともできなかった。まるで七つか八つの子供の書くような字を書いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
構図はすこぶる平凡であるが、筆者は評判の美人画家青山かおる氏だけに、頗る婉麗えんれいな肉感的なもので、同氏がこの頃急に売り出した理由が一眼でうなずかれる代物である。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
農家の前なる、田一面にき出でたる白蓮の花幾点、かなめの樹の生垣を隔てゝ見え隠れに見ゆ。恰も行雲々裡に輝く、太白星の如し。見る人の無き、花の為めに恨むべきまでに婉麗えんれいなり。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
またはそこに婉麗えんれいな優雅な精緻せいちな美を認め得ないと言って、冷やかに見てはならぬ。否、末期においてすらこれほどのものを造り得たという事を感歎せねばならぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
諸家輩出せし処、詩想の精細になり婉麗えんれいになりながら、俗にちざりし処などやや相似たり。されど蕪村を以て清初の誰に比すべきかと問はば、似たる者を見出だす能はず。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
父はお家流をよく書き、書体の婉麗えんれいなことは無器用な彼なぞの及ぶところでなかったが、おそらくその父の手筋は読み書きの好きなお粂の方に伝わったであろうとも語った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
北並木通りノルド・アレイまでドライヴに来たのだが、お宅の前を通りかかったからと、お立ち寄りになったことがある。端麗というよりも、女優にも見紛みまがわしいほど婉麗えんれいな二十二、三の侍女が、お供についていた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これに比べ女性的な繊細な婉麗えんれいな美を示しているのは円覚寺の放生池に架せられた石矼せっこうの浮彫です。紋様への卓越した力量をここでも充分に味うことが出来るのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一、雅樸を好む者婉麗えんれいを嫌ひ、婉麗を好む者雅樸を嫌ふのへきあり。これを今日の実際に見るに、昔めきたる老人は雅樸の一方に偏し、婉麗なる者を俗猥ぞくわいの極としてこれを斥く。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
意匠に勁健けいけんなるあり、優柔なるあり、壮大なるあり、細繊さいせんなるあり、雅樸がぼくなるあり、婉麗えんれいなるあり、幽遠ゆうえんなるあり、平易なるあり、荘重そうちょうなるあり、軽快なるあり、奇警きけいなるあり、淡泊たんぱくなるあり
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)