妾腹しょうふく)” の例文
紀州大納言家の妾腹しょうふくの姫、それが本当かも知れません。でも妾はどこまでも、小松原家の娘でございます。その方がうれしいのでございます。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
名目は「風狂ふうきょう」ということになっているが、実際は世継ぎ争いであって、妾腹しょうふくの子の栄之進を世子にするため、彼が追われたというわけなのである。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「右の方は下町の物持のお嬢さんが一人、何でも妾腹しょうふくで御本宅がやかましいとかで、下女が二人ついて暢気のんきに暮していますよ、お名前はお町さん——」
この人はもとさる尊とい身分の人の妾腹しょうふくの子だという事であるが、生れ付き鼓をいじることが好きで若いうちから皮屋へ行っていろいろな皮をあつらえ
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その父の歿後どこかから妾腹しょうふくの子と名乗る女が出て来て、一時は面倒な訴訟そしょう沙汰にさえなった事があると云う事——そう云ういろいろな消息に通じている俊助は
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは、川手氏自身は少しも知らなかったのですが、妾腹しょうふくに出来た妹さんがどこかにいて、犯人はその妾腹の子まで根絶やしにするのだと豪語していたというのです。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
高木の父は高名な陰謀政治家で(彼は妾腹しょうふくである)そのころ大事件の中心人物であった。私は高木の依頼で書類の包みを保管していたが、多分事件の秘密書類であったと思う。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
中国の豪勇日幡景親かげちかが主将として坐り、その軍監ぐんかんとして、毛利元就もとなり妾腹しょうふくのむすめむこ、上原元祐もとすけが彼をたすけているかたちだが、一方は毛利の外戚がいせき、一方は剛骨ごうこつな勇将、こうふたりが一城にあって
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「花嫁は某伯爵のお嬢さんだ。妾腹しょうふくだけれど、立派な身分さ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「武元殿の妾腹しょうふくの姫よ。満知まち姫様と申し上げるお方だ。……せがれ、左内の婚約のぬしだ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森三之助が相右衛門の妾腹しょうふくの子だということは、おいちは森家の下婢かひから聞いた。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あなたは紀伊様のお姫様、お妾腹しょうふくとはいいながら、立派なご身分でございますよ。が、今では木地師の娘、で、だんだんとこうを経て、私たち仲間と同じように、お駕籠なんかに乗りっこなし。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紀州大納言家妾腹しょうふくの息女、なるほどなあ。それだからこそ、あんなにも品位が備わっているのだ。……だがそれにしても、小松原の家の娘になったのはなぜだろう? いやいやこれとてもよくわかる。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)